第十話「それぞれの思い」

少年を一口で丸のみにした塵を、一同は呆気にとられるように見つめていた。

「…何をしている!今だ!かかれ!」

束の間の静寂を打ち破ったのは、遠くから響くハキハキとした鋭い男の声。
冷たい夜の空気が再びピンと張り詰めたような感じがした。

「天守!あなたは頭をつぶしてください!私は手足を削ぎます!」
「ああ!」

有坂の一喝により気を取り直した二人は一斉に巨大な塵に飛び掛かる。
一方塵は、獲物が喉を通り腹に収まっていくのを待つように動きを止めている。塵を確実に仕留めるなら今しかない。通常の塵ならば、胴を真っ二つにすれば風船のように弾け飛ぶ。
しかしこの巨大な塵を一撃で分断することなど不可能だ。中心の核に辿り着くまで、体を少しずつ削っていくしか方法はない。

「せやあッ!」

扇規は大きな扇を軽々と振り下ろす。すると塵の左前足が付け根から分断された。
塵は「ガア!」と短く悲鳴を上げた。前足を失い、塵は左に倒れ込む。ドシン!とその衝撃が地面に響いた。

「今です!頭を!」

天高く跳躍した天守は、傘を一本槍のようにして塵の首めがけて上から突き刺した。天守の傘はもちろんただの傘ではない。鋼鉄の強度を誇り、広げれば身を護る盾の機能を果たす神器だ。力いっぱい突き刺せば、刺突武器としても使えるというわけだ。
地面に勢いよく突き立てられた傘は、塵の首を撥ねたかに見えた。だが間一髪のところで体を反らせて天守の攻撃を回避した塵は、残ったもう片方の前足で天守を突き飛ばした。

「ぐはッ!」

相手が普通の塵ならば確実に仕留められただろう。単に犬の形をしているだけではない、素早く動くし機転も利く。扇規と天守は理解した。これは塵とは全く別の生き物なのだと。先ほどまで出鱈目に暴れていたが、危機を察知したのか警戒するように唸り、脚や尾をバタバタさせて扇規たちが近づけないようにしている。
そうこうしている間に塵の足は再生され、再び起き上がった。

「くそっ!このままでは埒が明かない…!」

作戦はもはや水泡と帰し、扇規は焦りと苛立ちを見せる。
その背後で、櫃と櫃の神器を安全地帯へと退け、再び戻ってきた鳥喰が目を細めて言った。

「おい有坂んとこの番犬、あの塵に喰われたガキはどうやって救い出すつもりだったんだ?」
「彼は自ら犠牲となることを望んだ。助け出す算段などつけていない。そんなことより今は…!」

獲物へと向きなおった扇規の前に、鳥喰が立ちはだかった。

「何のまねだ鳥喰、そこをどけ!」
「あのバカが有坂の手のひらで踊りまくった結果だからな、お前らに文句言うつもりはない。だが雑用係がいなくなるのは困るんでな」
「はあ!?何を…」

目を見開いて殺気だつ扇規だったが、鳥喰の背後からやってきた人物を見て気圧されるように体を強張らせた。その人物は切れ長の目を光らせて、不敵な笑みを浮かべながら鳥喰の背後に立った。

「面倒事を嫌うお前らしくないね。だが我々の邪魔をしてどうする?彼の犠牲を無駄にする気か?」
「犠牲、ねえ。全部お前の計算通りだったんだろ?有坂隊長さんよ」

扇規と有坂に挟まれるようにして立っている鳥喰は、二人の動きを警戒しながら煽るように言った。

「俺はコイツを退治する方法を知ってる、喰われたヤツを救い出す方法もな。お前らが協力するってんなら、教えてやらんこともない」

鳥喰の言葉を疑うようにキッと睨み付ける扇規。しかし有坂は「ほう」と顎に手を置いて興味ありげに応えた。

「協力してもいい。そして見事あれを退治し、喰われたものを救出できたなら報酬を支払うとしよう」

「隊長!?」と扇規は驚嘆の声をあげる。鳥喰も不信感を露わにし、目を細めている。

有坂が力を貸すときは、必ずそれ相応の見返りを要求するときなのだから。案の定、有坂は「その代わりに…」と続ける。

「教えてもらおう。ずっと気になっていたんだ。お前のその知識と力、どこで手に入れた?」
「……」

鳥喰は黙ったまま腰に差した鞘に手を置いた。様々な町を渡り歩き、戌組の隊長を務め上げる有坂でさえ知らぬ情報をこの男は握っている。以前から謎の多い男だと思い、その正体を暴く機会を窺っていた有坂にとって、これはまたとない好機。

「隊長ッ!もうこいつを押さえきれない!早く次の手を…!」

竹傘の神器で必死に塵を食い止めていた天守が汗を滲ませて叫んだ。

「さて鳥喰、どうやって退治する?」
「お前らの神器、どちらかを貰う。俺は他人の神器の能力を、最大限まで引き出せる。ただし、負荷をかけすぎたその神器は壊れ、二度と使えなくなるだろう」

ワナワナと肩を震わせ、とうとう感情を抑えきれなくなった扇規がバッと飛び出し鳥喰の胸倉を掴む。

「我々にとって命とも言える神器を差し出すだと!?ふざけるな!他人の神器を扱えるなど聞いたことも無い!お前の話は全部でたらめだ!」

胸倉を掴まれた鳥喰は一切表情を変えず、ただ有坂の反応を待っている。
「はあ」とため息を漏らした有坂は、背の高い鳥喰に合わせてやや見上げて言った。

「仕方ない、私の神器を貸そう。素早いあれを正確に狙い撃つのに最も適している」
「なっ、隊長の神器を!?いいえ貸すなら私の神器を…!」

なおも反対するように訴えかける扇規を黙らせるように、有坂が鋭い眼光を向けた。

「いい加減にしろ扇規。一刻の猶予も無いこの状況で、私の考えに口を挟むな」

扇規は「はい…」と力なく返事をし、苦々しい顔で一歩下がった。
有坂から彼の神器を受け取った鳥喰は、その銃口を巨大な塵へと向ける。しかし暴れまわる塵では上手く照準を合わせることができない。有坂が顎をクイと上げ、「行け」という仕草をすると即座に扇規も塵を抑えに向かった。
天守と扇規、二人による完璧な連携。塵は翻弄され、再び動きを鈍らせた。今だ、鳥喰は狙いを定め、引き金に手を掛けた。そのとき、


―パンッ!


突如、塵の体から漏れ出す眩い光。
一同はその光に目を晦ませた。

「なんだ!?」

直視できないほどの閃光を向けられ、視界が真っ白になった。
しばらくして扇規はゆっくりと瞼を上げる。まだ視界に靄がかかったようで判然としないが、塵も町もとくに変わった様子はない。
一体今の光は何だったのだろうか?辺りを警戒しながらじっと塵の様子を窺う扇規は、あることに気付く。

「有坂隊長…塵の動きが変です、これではまるで…」
「図体がでかいだけで、鈍間な普通の塵のようだな」

先ほどまでの機敏な動きも、普通の塵では考えられないような感情的な動作も見受けられない。生ける屍のようにゆらゆらと、ただ魂を求めて近づいてくるのみ。扇規たちは肩透かしを食らったように塵を見つめていた。

『パァンッ!!』

銃声とともに煌めく鉄の塊が発射された。塵の背中に命中し、恐らくは心臓あたりを貫いた。どこか釈然としない顔をした鳥喰がゆっくりとその銃口を下ろした。塵は水風船のように弾け飛び、中からはドロドロしたものが飛び出した。

「これで終わりかい?」

拍子抜けだと言わんばかりに有坂がため息交じりにそう言い放った。
それは鳥喰も、いやそこにいた誰もが思ったことだろう。

「隊長!逃げ遅れて喰われた連中が出てきたぞ。全員重度の“障り”を受けてる、今すぐ治癒師を呼ばないとまずい」
「わかった、手配しよう。その中に“彼”も居たか?」

天守は首を横に振った。

「そうか…手遅れだったのかもしれないね」

ちら、と横目で鳥喰を窺う有坂。
鳥喰は一点に、蒸発していく塵の亡骸を見つめていた。


◆◆


長い夜が終わり、戌の町に再び日が昇ったのは塵を倒してから間もなくのことだった。
地下に避難していた住人たちも、安堵の表情で各々の家へと向かう。
復旧した常闇の道を通って“治癒師”である枯不花も駆けつけた。悪夢のようなこの現象は丸く収まったに見えた。

「報酬の件だが、町の修復費用を除くと今渡せる額は…すまんがこれが限界だ」

戌組の詰所の前で、天守は退治料と書かれた紙袋をそっと手渡す。
紙袋に収められた金貨を一瞬だけ覗いて、鳥喰はそれを懐にしまった。
とくに不満げな様子もなく、無言で立ち去ろうとする鳥喰に天守は、

「なあ、隊長はああ言っていたが消滅したと決まったわけじゃないぞ。一応捜索依頼出すか?」
「なんで俺がそこまでしなくちゃならん。助かっていたとして、顔を見せねえなら逃げ出したってことだろ。ガキ一人どうなろうが、どうでもいいさ」
「矛盾してるな。俺はお前が自ら面倒事に首を突っ込んでいるのを初めて見たぞ?それはそのガキのためじゃなかったのか」

鳥喰はフン、と鼻を鳴らす。

「俺は俺のためにしか動かん。面倒事ももう御免だ。後始末はお前らに任せる」

手をひらひらと振りながら、背を向けて去ってしまった。
今回の騒動は幸いにも一名の行方不明者を出しただけに留まったが、原因が何なのか、あの犬の形をした巨大な塵は何だったのか、解明しなくてはならない謎が山積している。戌組は町の修復と真相の究明を早急に行わなければならなかった。
正直のところ、最近この世界に来たばかりの少年の安否を気にかけている暇はない。そのことは、天守も理解していた。真っ直ぐで人の善い白奉鬼に情が移ったのか、いや違う。これは罪悪感だ。彼の異常なまでの自己犠牲精神を利用し、完全に塵の餌として作戦に協力させた。有坂の性格と計画を知っていながら、止めようとも思わなかった。仕方がないとさえ思っていた。天守は両眉を寄せ、不愉快そうな顔で詰所に戻った。

「隊長、鳥喰から色々と聞き出しておかなくていいのか?」

有坂は詰所の武器庫にいた。あまり使うことはないため、人の出入りもめったに無く埃だらけだ。刀、槍、銃、大砲、何でも揃っている。だがすべて神器ではなくただの武器、人であれ塵であれせいぜい足止め程度にしかならない。

「ああ。町が落ち着いたら問い詰めるとしよう」

狩猟に使いそうな銃をしげしげと眺めながら。以前彼が愛用していた神器の銃は、昨夜鳥喰が使ったことでただの鉄の塊と化した。
神器は一人に二つと渡ることは無い。有坂はもう神器を使えないのだ。

「神器がなくなっても隊長は戦うつもりか?」

天守は眉をひそめて言った。
すると有坂は、ふふっ、と笑い声を漏らす。

「戦い方なんていくらでもあるさ。今回だって、私はほとんど手を下してはいないしね。要は、組織の頭として機能していれば問題ない」
「なるほどな。あんたが頭なら、俺たちは腕や足。命ずるままに動く兵隊ってわけか」

皮肉を浴びせるような天守の言いように、有坂はピクっと眉を動かした。

「何か不満かい?彼を囮にすることは本人も同意済みだったろう」
「隊長に不満はない、あるとすれば自分にだ。隊長の道具でいる方が楽だったんだ。自分が犠牲になる覚悟が俺にはなかった」

唇を噛みしめ、何かを決意したように拳を握りしめる。
有坂はようやく天守のほうを向くと、相も変わらず張り付いたような笑顔を浮かべて言った。

「図に乗るな。お前は操る者がいなければただの木偶だ」

天守は初めて彼の本性を目にした気がしていた。ごくりと唾をのみ、威圧感に押しつぶされそうになるのを必死で堪えた。
そして天守は、戌組をあとにした。


◆◆


一人の少女を心配そうに見下ろす少年。少女は死人のような青白い肌に美しい黒髪をもち、どこか異形な雰囲気を醸し出す。
今は目も瞑り、体もピクリとも動かないため本物の死人のようである。

「な、治るんっすか…神器でも?」

せわしなく歩き回り、少女と治癒師を交互に見つめる少年・櫃は我慢しきれずに尋ねた。
隣町からはるばるやってきた治癒師の少女は一回だけ頷く。

「はい…治ります。神器…の障りは、初めてですが…彼女は人に近いようなので…」
「へ?どういうことっすか?」

治癒師の少女・枯不花は薬箱から薬包紙を取り出しながら答える。

「表面は神器です…だから…塵と戦っても障りを受けません。でも、体内は別です…液化した塵が入って…障りを受けています」
「内側は俺たちと一緒ってことっすか」

枯不花は再び頷いた。そして薬包紙を開き、少女の口へと流し込む。
神器の少女の障りはそれほど酷くはなかったらしく、薬を二週間ほど飲ませれば収まるそうだ。

「なんつーか…俺、情けねえっす。神器使えなくなって、取り乱して、気付いたら犬の塵は退治されてて…。それで―」

その先は言葉を詰まらせた。放心状態だった櫃とすべてが終わってからやってきた枯不花は、事の顛末を扇規から聞いて知ることとなった。
もっとやれることがあったはずだ、と櫃は悔いている。枯不花は、

「白奉鬼くんは…優しいんです…。見ず知らずの相手にだって…すごく優しいから…」

そう言って、俯く彼女の目から雫が零れ落ちる。出会って間もない間柄だが、二人とも白奉鬼には不思議と心を動かされていた。
今は眠る少女を道具としか思えなかった櫃も、本気で少女の身を案じるようになっていた。
戌組には安否不明と聞かされたが、彼が生きていてくれたらどんなに嬉しいか。二人はしばし感傷に浸っていた。とそこに、

「薬飲めば大丈夫なんだろ、箱につめてさっさと申んとこに帰れ」

雰囲気をぶち壊すように現れた男。大事な部下を失くしたというのに、いつものようなふてぶてしい態度で立っている。確かにここは鳥喰の家で勝手に上がり込んだのは二人だが、空気が読めないにもほどがある。櫃と枯不花は同時に冷たい目つきで鳥喰を見上げた。

「ダメ…です…!けが人は絶対安静…です」
「そうっすよ!だいたい鳥喰さん何で平気そうなんすか!白奉鬼くんが可哀想っすよ!」

鼻息を荒くし、鳥喰に批難を浴びせる二人に、渦中の人物は退屈そうにあくびをしながら、

「家族を失ったわけじゃあるまいし、そこまで感情的になってるお前らのほうが理解できんな」
「鳥喰さん冷めすぎっすよ!白奉鬼くんめちゃめちゃ良い子だったじゃないっすか!」
「そのめちゃめちゃ良い子を利用して薬屋に行ったお前が言うな」
「み、見てたんすか…」

櫃は鋭く急所を突かれたように体を強張らせた。

「多麻さんは…まだ…知らないんですよね…」

心配するように枯不花が尋ねた。
多麻は一緒に来ると危ないからと、昨晩酉町に置いていったきりだ。
急きょ戌町に呼び出された枯不花とともに来るかと思いきや、「ワタクシはもう少しこの町にいますわ」と酉町に残ったという。白奉鬼のことを知ったらきっと悲しむだろう。

「おいお前ら、多麻には白奉鬼が居なくなったことを言うな」
「!?」

二人は驚いて目を丸くした。こんな重大な事を、ずっと隠しておけるわけもない。
それに鳥喰が「多麻が悲しむから秘密にしておけ」など絶対言わなそうだからである。

「む、無理っすよ!俺らが言わなくたっていつかバレますって!」
「それでいい。少しでも時間を稼げ」
「隠しておく意味がわかんないっすよ!」

鳥喰はそれ以上語らず、困惑した二人を置いて部屋に閉じこもってしまった。
疑問符が消えない二人はしばらく「うーん」と唸りながら考えた。なぜ鳥喰があんなことを言ったのか、時間を稼いで何になるのか。

考えを巡らせても一向に答えは出そうにない。そこへ、

「おう。鳥喰いるか」

戌組の隊員であり、有坂の側近の天守が現れた。
この男は鳥喰との付き合いも長く、かつてどこかの町で一団を取り仕切っていたとの噂もある切れ者だ。意図を掴めるかもしれない。
そう思った二人は思い切って鳥喰に言われたことを打ち明けた。

「白奉鬼が消えたことを黙っておけと言われた?そりゃあ、鳥喰らしくねえな」
「っすよね…あの人が無意味にそんなこと命令するわけねーし。やっぱり白奉鬼くんが居なくなって内心動揺してんのかな」

天守は腕を組んで目を瞑り、しばらく熟考した。

「…真意はわからんが、アイツは俺たちとは違うものを見てる気がする。昔から謎の多いやつだが、何か大きな目的のために動いてる気がするんだ」
「はあ、天守さんがそう言うんなら…」

釈然としないが今はそれで納得するしかない。そして天守は何かを閃いたように顎に手を置いて頷いた。

「お前たち暇か?…いや、枯不花は治癒師としての仕事もあるだろうが」
「俺が暇かって言いたいんすか…まあ、コイツが治るまでは暇っすけど」

櫃は少女を見つめて言った。
「よし」と確信を得たように目を見開いた天守は、こう提案した。

「俺たちで御霊祭りの依代を作るぞ!」
「いっ!?」

櫃は妙な声を出したが、枯不花は「?」という表情を浮かべている。
御霊祭りは数年に一度しか行われず、開催するのが夜ということもあって参加者はほとんどが御霊神社のある戌町の住人だ。住人以外は知らないのが普通なのだが、櫃は申組に入る前、戌町を訪れ御霊祭りを見たことがあった。
だからこそ、表情を強張らせたのだ。依代とは神を下ろす儀式に使う神体のことで、御霊祭りのたびに新製される。人々が思い思いに作った依代のどれかに、神が宿るという。それはとても名誉なことで、神に拝謁するまたとない機会である。しかしその争いは激しく、この日のために長い時間をかけて用意するもの、わざわざ反対側の町から持参するものもいる。
何を基準に神が宿るのかも謎であり、宿らなかった年もあるそうだ。

「なんでまた…第一御霊祭りは一か月後っすよ?間に合うわけないじゃないっすか」
「この世界の神に直接話ができるのは巫女だけだ。俺たちは御霊祭りにかけるしかない。そして俺が今疑問に思っていることを全てぶちまける!」

今から作って選ばれるなんて無理に決まっている、とあきれ顔の櫃をしり目に、もう一人熱くなっている少女が居た。

「わた…しも…!!神様に聞きたいです…白奉鬼くんはもう…どこにもいないんですか…って…」

唇をきゅっと噛みしめ、泣き出しそうになるのを必死で堪えている。
その目は間違いなく本気だ。櫃も覚悟を決め、三人は目を合わせて強くうなずいた。

「依代作り、開始だ!」

三つの町の住人が、それぞれの思いを一つにした瞬間であった。
それを密かに聞いていた鳥喰も、心に何かを宿していた。
一人の非力な少年の消失をきっかけに、盤上の駒は動き出した―。